石器文化研究会:第212回例会報告

日時:2006年5月20日(土)15時〜17時
会場:神奈川県社会福祉会館4階第4研修室
出席者:15人
発表者:坂下貴則(首都大学東京大学院博士課程)
内容:「旧石器時代住居状遺構の研究−神奈川県相模原市田名向原遺跡の分析から−」

 今回の発表は、神奈川県相模原市田名向原遺跡の「住居状遺構」について、とくに被熱黒曜石石器の同定、平面分布から再検討を試みたものでした。

 被熱黒曜石の同定については、1970年代に加藤晋平氏らが着目して以来、輿水・福岡(1991)、中沢(2000)などによる条件制御実験にもとづく方法が示されています。
 発表者も、中沢の方法に準拠しつつ自らの実験も行ない、そのデータをもとに被熱痕跡同定のための基準を設定しました。その上で、田名向原遺跡の「住居状遺構」出土石器群の検討を行ないました。当該石器群では、黒曜石の比率が極めて高く(2980点中2356点)、このため被熱痕跡の認められる黒曜石石器の分布を、そのまま被熱資料の分布の全体像として捉えることができるという点で有効な分析が行なえます。

 顕微鏡観察の結果、当該石器群の中に数パーセントの被熱黒曜石石器が同定されました。これらは、「住居状遺構」にのみ分布し、隣接する石器集中部には認められません。この点で、まず「住居状遺構」の特徴が指摘できます。
 また、「住居状遺構」内ではとくに「炉址」に集中する傾向が捉えられました。一方、「柱穴」については、被熱黒曜石石器の分布が認められるものと、そうでないものとが認められるという結果となりました。「炉址」に集中する被熱黒曜石石器については、それが炉における火の利用と深くかかわっている可能性が指摘されます。一方、一部の「柱穴」周辺における被熱黒曜石石器の分布は、それらが、実際には火の使用に関わる遺構だった可能性を示唆します。これに関連して発表者は、いくつかの炉の存在、炉の周囲における石器製作活動、その結果の被熱黒曜石石器分布の形成の可能性を仮説として提示されました。

 遺跡出土資料における被熱痕跡の評価の問題、極微細剥片の分布との関連など、検討課題は残されていますが、全体として、制御実験にもとづく基準の提示、数値と分布図によるデータの提示など、分析の過程と結果について非常に分かりやすい発表でした。このため、発表後、会場からは多くの質問やコメントが寄せられました。
 とくに重要と思われるのは、「住居状遺構」としての評価は、必ずしも定まったものではなく、さらに調査・分析を進める必要がある点が浮き彫りになったことでしょう。
 とはいえ、石器集中部には認められない被熱黒曜石石器が集中していることは、円形に配列されているような礫の分布や、「炉址」の存在などと関連して、当該「遺構」が、ほかの「一般的な」遺跡の構成とは異なっていることを示しています。この点については、会場でもおおむね同意されたことと思われます。
 今後、田名向原遺跡以外の、同時期の黒曜石多用石器群について、同様な視点での分析と比較検討を望む意見も出されました。

 今後の展開の可能性を大きく秘めた発表をしていただき、活発な議論を交わすことができ、非常に有意義な例会となりました。
 なお、例会終了後は、会場近くで発表者を囲んだ懇親会を開き、そこでも多くの意見交換がなされたことを付記します。 (記録・野口)


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